#2 それは嵐の夜でした(行永の場合)
それは嵐の夜でした。
両親の訃報を知らされたマサ兄と私に
追い討ちをかけるような不幸な出来事。
それはあの気持ち悪い
遠い親戚のおじさんに引き取られることに。
マサ兄にはいえなかったけれど、
あのおじさん、ねっとりとした気持ち悪い
いやらしい目で私を見る。
以前、同じようなケースをお父さんに相談したら
「ユキちゃんや僕みたいなのは、
そういうヘンな人に好かれやすいんだよね」
経験者は語るという感じで、
お父さんはいろいろとヘンな人について教えてくれた。
お父さんは最上 雅彦(モガミ マサヒコ)という。
娘に私がいうのもなんだけれども、自慢の父。
誰よりもハンサムで切れやすいけれど、頭がいい。
お母さんは春永(ハルエ)、ほのぼのとした人で、
いつも優しい人だった。
「ユキちゃん、そういうヘンな人は普通に扱わなくていいんだよ」
「普通って??」
「ユキちゃんはもうわかるだろう?」
「えっ……」
「隠さなくてもいいよ、君にも少し見えるんだろう?」
お父さんは自分も見える人だという。
具体的になにが見えるのかというと、
現実であって現実でない世界。
それは不思議な世界。
光溢れる美しい世界と
闇で安らぐ世界。
そこで暮らす住人達。
それがなんなのかはわからないけれども、
そういう存在は小さい頃から身近にあった。
「君は強いよ、マサよりも。たぶんね」
意味ありげにおもしろく笑いながらいうお父さん。
マサ兄、うっかりでそそっかしい私の兄。
優しくて暖かくて、いつも私を守ってくれる。
どちらかといえば、マサ兄はお母さん似なのかしらね。
私は見た目が少々ハデだったので、
ヘンな人達に付きまとわれたりした。
いつもそういう人達から私を守ってくれた。
(実質守ってくれたのはお父さんなんだけれどもね)
「僕がいない時は、
他の世界の住人に助けを求めるといいよ」
お父さんはごく自然にいう。
そして、私も頷く。
どう助けを求めればいいのか聞きたかったけれど、
「知らなくても、ユキちゃんならできるさ~
その時が来れば。
これは僕とユキちゃん、2人だけの秘密。
共通の力だからね~」
お父さんはごく当たり前のように微笑み、
なにもそれ以上は教えてくれなかった。
ああああ、お父さん、
どうして教えてくれなかったのよ~!!
私にあの気持ち悪いおじさんとどう対決しろっていうの??
いくらなんでも10歳の私と40歳のおじさんじゃ、
力勝負じゃ私、負けちゃうよ!!!
マサ兄に頼って、
万が一にでも殺傷沙汰にでもなったら、、、、
私、、、耐えられないよ。
マサ兄の将来を潰すことはできない。
私が耐えれば、
がまんすれば、
すべて丸く収まる。
私さえ、我慢すれば、
私さえ…………
マサ兄には迷惑も心配もかけたくない
私の取るべき道はひとつ。
コンコンっとノックの音。
「ユキちゃん、まだ起きてるかな~」
あっ、マサ兄。
寝たフリ寝たフリ。
ベットに滑り込みギリギリセーフ。
マサ兄の気配が感じられなくなるまで、
寝たフリ。
安心させないと。
心配させたら、いけないから。
私はそう思いつつ、
寝たフリをしていたら、、、本当に眠くなり、
眠りの底についてしまいました。
マサ兄、私は大丈夫よ。
だから、、、安心してね。
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